元海軍主計大尉である阿川弘之氏の、海軍提督三部作の第2冊。先に発表された「山本五十六」同様、執筆当時存命だった井上成美元海軍中将に取材を行っているため、半分井上の伝記のようにもなっている。戦争へと進む時流に全力で抗するも、結局は止められず、最初の一手を自ら打たねばならなかった山本の悲哀と悲惨を描いた前書と違い、この作品は奇妙な明るさがある。それはひとえに米内の人柄の故だろう。
自分もかくありたい。おすすめ度
★★★★★
戦前の宰相、米内光政の伝記。
当初は無口で鈍重といわれ、首相時代についたあだ名は「金魚大臣」(=見た目が立派なだけで役に立たない)。
しかし首相を退任した後、いざ日本の敗戦が濃厚になったとき、海軍大臣として終戦に向けて尽力した。
米内はとても器の大きな人だったといわれており、それは「人の使い方」について語った次の言葉からも伺える。
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人にはそれぞれの能力があるからね。
物サシでいうと横幅が広いのもあるし、
縦に長いのもある。
物サシの具合をよく見て、その限度内で働いている間は、
僕はほったらかしとくよ。
ただ、能力の限界を越えて何かしそうになったら、
気をつけてやらなくちゃいかん。
その注意をしそこなって部下が間違いを起した場合は、
注意を怠った方が悪いんだから、
こちらで責任を取らなくちゃあね。
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阿川さんは「トリオ」で考えていたのであろう。おすすめ度
★★★★★
阿川さんが、数ある帝国海軍の提督の中で米内〜山本〜井上を取り上げたのは、この三人を帝国海軍の最後の良心、期待の星として捉えていたと思われる。
したがって、別々に書かれているが、この三人が、太平洋戦争の海戦に反対し続け、心ならずも、米内さんは政治に翻弄され、山本さんは、最も戦いたくなかったアメリカに先頭切って戦わざるを得ず、井上さんは、目立たずに海軍兵学校超で終戦を迎える。
この本の大半は他のレビュワーも評しているように井上成美物語ではないかとすら思えるが、三冊(山本五十六は上下巻だが)まとめて読めば、阿川さんの真意が分かるのではあるまいか。
このような人たちが正当に発言できず、その声が反映されなかったことは、日本帝国海軍の悲劇であろう。
無私のすさまじさおすすめ度
★★★★★
米内という人は作中で何度も語られるが、寡黙でその心中を読み取りにくい人物であったという。こういう人を小説の題材として描くにはどうしても周囲で接した人々の証言が重要な鍵となってくる。著者はそれが為に多くの米内を知る人の証言・伝聞を調べ上げ、彼の事績をつむいでゆく手法をとった。
前半中盤までそのエピソードや人の証言、文献の引用が多いため、読むに少し辟易する部分もある。しかし、後半、米内が小磯国昭内閣海相として政界に復帰、終戦に尽力する過程から物語に哀愁が帯び始める。米内のよい部分もマイナスとなるエピソードも、総合的に書いて彼の人となりを浮かび上がらせるという構成だが、最終的には成功しているといえる。阿川氏の小説手法は、題材とする人間の周囲を克明に描く事で、主人公の確かな手触り、実像を浮かび上がらせようとするものなのである。
日本最後の海軍大臣として、血圧250を越える身体で終戦の為に闘った米内。寡黙で断片的な発言が多かっただけに、その評価は分かれるところである。作中でもその評価の二分した様が何度も描かれる。しかし米内自身の言葉に表れずとも、その意志の明確なる様を、周囲の人々の動きや言葉によってこの小説は強く描きあげている。小説の題材になりにくい無口な主人公を「無私」ということを鍵に巧みに描きあげた本書は名著である。
大勢が誤った方向に進んでゆくとき、いかに己の考えを偏らせないで一定に貫くという事が難しいか、よくよく思い馳せてみれば米内のすさまじさが解る気がする。気力の充実した若いうちに読むことをおすすめしたい本である。
良い出来でした
おすすめ度 ★★★★★
出来は非常に良いです。ファンなら買って間違いなく損のない品ですね。
ホント満点を付けても良い出来です。